最愛の、



登場人物
 父親
 息子
 ニュースキャスターの男(声のみのため女でも可)





開幕

舞台上には机が一つ。息子は勉強をしている。
父親、舞台上手から登場。

父親「ただいまー」

息子「おぉ、お帰り、お父さん」

父親「あぁ、ただいま」

息子「いつもより早かったね」

父親「あぁ。課長が『今日は早く帰れ』って言ったんだ」

息子「へぇ、良かったね。ねぇ、それさ、あれじゃない? 働き方改革、みたいな」

父親「あー、そうかもな」

息子「あれでしょ。残業させないようにする、みたいな。だから今日も、先生達が定時で帰れるように、部活無しで早く帰ってきたんだ」

父親「そうだったんだな」

息子「うん」



息子「あ、そうだ父さん。ちょっと聞いて」

父親「ん? なんだ?」

息子「今日、学校凄い大変だったんだよ」

父親「へぇ、何かあったのか?」

息子「うん。まずね、朝は普通だったんだ。いつも通り朝補習があって、いつも通り森田と松崎が遅刻したんだ」

父親「そういえば、森田君と松崎君は、自転車通学だったよな?」

息子「そうそう。それがさ、森田が遅刻するのはまだ少し頷けるよ。あいつ、山の上から来てるし。でもさ、松崎はすっごい近くに住んでるんだよ? 半径一キロもないくらい。それなのに遅れるとか、寝坊でもしてんのかな」

父親「それは、近いから、逆に心に余裕ができて遅刻するんじゃないのか?」

息子「あー、なるほどね」

父親「それで、そのあとは?」

息子「そのあと、二時間目くらいだったかな。突然グラウンドから金切り声が聞こえたんだ。それも複数の。何事かって思って窓の外を見たら、体育だったみたいなんだけど、一人、動きがおかしい生徒がいたんだよね」

父親「動きがおかしい?」

息子「うん。なんか、こんな感じで、他の生徒に近づいてたんだ」

父親「それは……ゾンビ、みたいだな」

息子「そう。その人、ゾンビになってたんだ。信じられないかもしれないけどね」

父親「あぁ。全くもって信じられないな」

息子「うん。僕も最初は信じられなかった。でも、本当にいたんだ。この目で見たんだ」

父親「そうか。寝不足かもしれないな」

息子「そういうと思って、写真と動画を撮ったんだ」

父親「へぇ、見せてみなさい」



父親「うん、信じよう」

息子「それで、流石にやばいってなって、みんな取り乱して、気づいたら教室に残ってるのが、僕とマサだけになってたんだ」

父親「あぁ、あの、サッカーが上手い子か」

息子「そうそう。それで、もう一回窓の外を見たら、さっきよりもゾンビの数が増えてたんだ。噛まれたらそうなるのかな。よくわかんないけど、とりあえず人とゾンビが5対5くらいになってたんだよね」

父親「ほうほう」

息子「それで、このままじゃ校庭にいる奴らが全部ゾンビになっちまうから、急いで出ようってマサが言って、僕もその後をついていったんだ。チャリ置き場まで行くのも大変だったんだよ。途中でゾンビが襲ってきたり、目の前で友人が噛まれたりね」

父親「それは、災難だったな」

息子「うん。で、命からがらチャリ置き場について、マサの自転車に乗って学校を出たんだ。校庭を見ると、もう人の姿はなかった。そして、なんとか家に帰ってきたんだ」

父親「マサヤ君が送ってくれたんだんな」

息子「違うよ。さっき言わなかったっけ?『目の前で友人が噛まれた』って」

父親「え? ……あぁ、そうだったのか」

息子「うん」



息子「実はね、僕も、噛まれちゃったんだ」

父親「えっ」

息子「ただ、まだああなってないだけ。抗体でもあるのかもしれない。だけど、いつああなるかわからない」

父親「それは……本当、なのか?」

息子「うん。傷はさすがに見せれるものじゃないから見せないけど、一人になった後、噛まれたんだ」

父親「そう、だったのか」



息子「ねぇ、父さん」

父親「……なんだ」

息子「僕を、どうする?」

父親「え?」

息子「いつゾンビになるかわからない息子を、このまま家に居させていいの? 夜中に突然ああなって、父さんに襲い掛かるかもしれないよ」

父親「……」

息子「僕は、もういいよ。父さんに迷惑かけたくないし。だから、捨てるなら今のうちだよ。……大丈夫。お父さんと離れるまでは、耐えれると思うから」

父親「……いや、そんなことはしない」

息子「えっ」

父親「だってお前は、俺の最愛の息子だ。お前を捨てることなんでできない。例え、お前がゾンビになる運命だとしても」

息子「父さん……」



息子「……まぁ、夢なんだけどね!」

父親「夢かよ!!」

息子「今日ずっと眠くてねー、一日中寝てたんだ。帰りのショートが終わってからマサに起こされた時、マサが生きてる!って思って、思わずマサに抱きついちゃったんだ。そしたらマサ『気持ち悪っ!!』って言って帰ったんだよ。ひどくない!?」

父親「いや、ここまで夢だということ明かさなかったお前の方がひでぇよ!!」

息子「ほら、話にはオチが必要じゃん?」

父親「悪趣味だ!」

息子「まぁ、お父さんの息子だし?」

父親「その言い方は語弊がある!」

息子「ま、話に付き合ってくれてありがとー。俺は勉強してきまーす。あ、母さん、もうすぐで帰ってくるってー」

父親「あぁ、わかったよ……」

息子、上手へはける



父親「……最期の最期まで、嘘が下手だったな」

父、テレビをつける

男「先ほど入って来たニュースです。現在、市内でゾンビが大量発生しています。原因は不明。第一高校を中心に広がっていますので、近隣住民の方は玄関と窓に鍵をかけ、バットなど、身を守るものを常に持っていて下さい。繰り返します。現在、市内で……」

息子「うああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
(上手から声のみ)

閉幕
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